ネパール旅行記 3

「私はタティー。ペルーから来たの。7ヶ月間の旅の途中よ。主に東南アジアをまわってるの。それまでは馬車馬のように働いてたんだから、一生に一度くらいこうやって世界を旅行しないとと思ってね!あなたたちはどこまでいくの?同じ方向?だったら、一緒に歩かない?」

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そういって、とても明るい女性が私たちの同行者になった。旅慣れた彼女は、水曜日の小型飛行機にちょうど乗ることが出来たラッキーな一人だった。

カトマンズから30分のフライトで、エドモンド・ヒラリー卿の開いたルクラ空港に着陸する。時間はもう11時ちかく。私の予定では、今日はナムチェという町まで行きたい。タティーにそう告げると、

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「私はそんなに歩けないわ。途中の集落で泊まることになると思うけど、それまでは一緒に歩きましょう。」

と言う。旅は道連れ、か。

しかし、歩き出してみるとなんのことはない、私たちより、タティーの方が健脚なのだ。ジュン君は農業で身体をつかっている。タティーは半年ちかく旅で歩いている。私はアトリエや事務机で座っている事が多いのだ。足が言うことを聞かない。

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それでも、彼女がペースメーカーになってくれて、私たちはモンジョという集落まで夕方に辿り着くことが出来た。

「今日は、私はここで休むわ。あなたたちはどうする?」

どうするもなにも、もうこれ以上歩く体力は残っていない。彼女がいなければ、私は道すがらの美しい風景や花々に気を取られて、ここまですら上がってこなかっただろう。ロッジであたたかい食事をいただき、シャワーすらあびることが出来て、睡眠を得る。こうして、山の一日目は幕を下ろした。

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雨季なのだ。山行きの途上、青空を臨めることは少なくて当然なのだ。しかし、時折私たちは真っ青な空を仰ぐことが出来た。福岡の最近は、PM2.5の影響で晴天でも霞んだ空が多く、こんな透けるような青さにはしばらく出会っていない。氷河が削られて何処までも高いところから濁流があちこちに川を作っている。轟々と音を立てて流れ行く白い筋は、私たちの山行のBGMでありつづける。

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モンジョからナムチェはそう遠くない。翌朝も、タティーは疲れをしらないのか、ずっと話しながら登っている。イギリスやスペインに長くいたという彼女は、普段使いの英語でいろんな話題を投げかけてくる。おかげで、私もいろんな話をした。そもそも、ここへなにしにきたの?という問いかけから、私もはぐらかさずにこう言った。

「君は奇怪に思うかもしれないが、私は目には見えない存在とのやりとりを通じて絵を描いている。毎年、いろんな場所でその次の年のカレンダーの原画を描いているんだけど、今年は世界最高峰の山の神々と話をしようと思ってね。」

彼女は一瞬たじろいでから、こうつづけた。

「10年前の私なら、『何、変な人・・。』って思ったでしょうね、だけど、私もいろんな本を読んだし、いろんな人に出会ったわ。だから、そういう話を聞いても、なにかわかる気がする。」

そう、正直に答えてくれた。

ナムチェで、かろうじてWi-fiがつながる時に、彼女は自分のタブレットで私のwebサイトを見てくれた。そして、

「こういうのも、モダンアートっていうの? 私、美術館にあるような、四角だけが真っ白いキャンバスに描かれたような絵はよく解らないし、苦手なんだけど、この絵は見て楽しめるわね。私、この絵からは、幸福感と調和を感じるわ。」

とコメントをくれた。私が絵やレッスンを通じていつも皆さんに伝えようとしている内容が、一枚の絵を通してシェアされる。ああ、絵を通じて世界に愛と光を伝えていくというの、こういうことなんだなと感じさせてくれる。

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この日ランチをとったロッジの女主人とすぐに仲良くなっていたタティーは、ナムチェでの宿もその女主人から電話してもらっておさえていた。ナムチェのナマステロッジでは、私たちの到着を知っていてくれて、部屋の手配、今夜ある修道院での祭のこと、ポーターの手配が必要かどうかなど、テンポよく話がすすむ。本当に旅慣れたものだ。

しばらく3人で歩いていたので、私はひとりになりたくなって、彼らとわかれ山の斜面に広がるナムチェバザールを二時間ほど散歩した。沢山の石造りの家が立ち並んでいるが、考えてみるとこの建築資材はすべて人力でここまで来たに違いないのだ。私たちが10キロ程度の荷物を重いといって歩んでる山路を、鉄骨や、材木を背に積んで歩む荷役がいるのだ。人間業とは思えない。

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空が青くなる。私の目が喜ぶ。向こうのほうに遙かな山並みが見える。空間が広い。胸がすく。

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