とにかくここで、絵を仕上げるんだ。今日は下見をして、明日、明後日と時間を使おう。
そのためにも、1度スケジュールの確認だ。ジュン君は私が絵を描いている間、どうするだろう。タンボチェは、思ったよりも見るべきところもそうは多くない。修道院も、訪ねたところで、丸一日なにかできるようなところでもなさそうだ。
「ケイさん、俺、もう少し先まで、登って見るよ。できれば、氷河が見たいんだ。このまま、ランチ食べたら行ってこようと思う。」
すごい。すごいなあ彼の体力は。それしか思えなかった。
私は、絵を描く目的で来てなかったとしても、ここからもう一つ先の集落まで行こうとは思わないだろう。熱心に地図を見ながら、行き先を練っている。彼の生き方はまっすぐで、だけどとても穏やかだ。生きている物への視線が優しく、弱い者を守りたいという心が歩いているような青年だ。私にとっての今回の旅。彼にとっての今回の旅。おなじ時間、おなじ場所をあるいても、違った世界をみて、違った体験をしているのだろうな。
彼の目から見える宇宙。その宇宙もありのまま、愛に満ちているのだ。
「うん、行っておいで。ゴニッシュも連れてさ。タティーも言っていたけど、ここから先はポーターなり、ガイドなりと一緒に行動するのが原則だから。万が一のときに、一人だと助けも呼べないしね。明後日の朝までに帰ってきてくれたら、帰りの飛行機には間に合うから。」
そうして、彼は、ランチを食べて、英語をしゃべらないポーターと出発した。
どこかいいコンビのようにも見えた。
ずいぶん、重たい雲だが、まだ、雨は降らない。
私は、カメラをもって、修道院をたずね、もし、晴れたならどちらにTop of the worldは現れるのか、何時頃なら霧が晴れる可能性があるのかなどを、若い僧侶に聞く。
簡単な周辺地図を書きながら、絵を描くのに良さそうな場所を探す。
どうやら、いい場所が見つかる。
さあ、一度、荷をほどいて、画材を確認しよう。
紙を広げよう。そして、今日はすっかり寝てしまうのだ。
寝袋のチャックを閉める頃、外は大きな雨音が響いていた。